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ホースの引き回しが楽々とできます。
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ホースの往復通過が可能です。

硬い地面用に杭が細くなっています。(φ10mm)

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 河出書房新社の〈ふくろうの本〉から『図説 本の歴史』を読む。タイトルどおりの内容ではあるが、通史というわけではなく、各時代におけるトピックを豊富なビジュアルとともに解説するというスタイル。

 

1章/書物という仕組みは
2章/本が揺り籃から出る
3章/書物にみなぎる活気
4章/本の熟成した味わい
5章/書物はどこへゆくか

 章題は上のとおり。これだけ見ていると漠然としていてそこまで面白そうに思えないのだが(苦笑)、さらに各項のタイトルを見ると、「巻子と冊子」、「アラビア文字とコーラン」、「禁書と梵書」、「検閲—書物の権力」、「装丁の技」「イギリスの挿絵本」、「キリシタン版と駿河版」、「神田神保町」などなどが並び、俄然具体的かつ魅力的に思えてくる。各項はすべて見開き構成なので、どこからでもパラパラ眺めることができるし、本に関する雑学・蘊蓄を気軽に楽しめる一冊といえるだろう。
 もちろん自身も普段から本に接してはいるが、意識しているのはあくまでソフトウェアとしての本である。たまにはこうしてハードウェアとしての本について考えてみるのも悪くない。

 ちなみに読んだのは今年でた新装版で、元版は2011年に刊行されている。そのせいか電子書籍の隆盛や書店の衰退など、近年の本を取り巻く状況についての記事があまりないのがちょっと残念。本の歴史においても大きな変化の時代であることは間違いないので、今度は増補版としてその辺りを追加して出し直してもいいのではないか。

 こういうのを読むとより深い関連書などを読みたくなってくるものだが、個人的には二十年ほど前に買って途中で放り出したアルベルト・マングェルの『読書の歴史 あるいは読者の歴史』をきちんと読み直したくなった。


テーマ:ノンフィクション - ジャンル:本・雑誌


2022/06/19 18:53
ミステリ関係以外の本 | trackBack(0) | Comments(2)
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 昨年に亡くなったミステリ研究家の松坂健氏の、初の単独著書となる『海外ミステリ作家スケッチノート』を読む。

 

 本書はもともと101人のミステリ作家を六人で分担して紹介するというガイドブックの企画だったようだ。それが二〇〇〇年頃の話。しかし執筆者のタイミングが合わず、企画は自然消滅。
 それからおよそ十年後にその企画を引き受ける出版社が現れ、今度は松坂氏が一人で101人分の執筆に臨む。本業が別にあるので、執筆は休みを潰して続けられたそうだが、それでも膨大な量である。そもそも作品ガイドと違って、作家ガイドは全作品を読み込んだ上での執筆となる。恐ろしく気が遠くなる作業だ。
 それでも執筆は進み、76人まで書き上げたときのこと。今度はなんと出版社が消滅し、原稿は宙に浮いてしまう。まもなく松坂氏は病に倒れ、二〇二一年に亡くなるのだが、その原稿をサルベージしたのが盛林堂であり、こうして今、『海外ミステリ作家スケッチノート』として読めることになった。

 解説の引き写しで申し訳ないが、以上が本書誕生の経緯である。まさに波乱万丈ではあるが、とはいえ肝心の中身が凡庸であれば、こういう話も大変でしたで終わり。
 その点、本書は内容も実に面白く、まさに氏のライフワークにふさわしい作品であり、それが水の泡とならず、101人に届かなかったもののこうして76人分の原稿が読めるだけでもありがたい。

 とにかく内容が素晴らしい。文体は軽妙だし、作家一人当たりの紹介原稿は二千字弱といったところで、一見すると軽いエッセイ風の作家ガイド。しかし、これが実に鋭い考察の元に書かれている。総括的にまとめるのではなく、切り口が新鮮というか、従来の作家ガイドにないオリジナリティを持たせ、これまでとは違った解釈を試みている。かといって変に理屈を捏ねるのではないから、ストンとこちらの腹に落ちるのが気持ちよい。シムノンやチャンドラーの項なんかは思わず「そうそう」と膝を叩きたくなった。
 松坂氏は執筆にあたり「新しい形容、新しい視覚、新しい評価を与えたい」という言葉を残していたようで、その意気込みがうかがえる。

 作家の選択も面白い。セレクトにも随分苦労されたようで、ジャンル的にはかなり幅広く、個人的にはジェレマイア・ヒーリイやスティーヴン・グリーンリーフといったネオハードボイルド勢が入っているのが嬉しい。なんせこの手のガイドでなかなか選ばれる作家ではないだけに、この辺りは松坂氏の選球眼に感謝である。
 また、予定されていたのに書かれなかった作家もリストとして掲載されており、その中にはクイーンやキング、アルレー、リンク&レヴィンソン、ウェストレイク等々の大御所もずらりと並ぶ。おそらくだが、それこそ新たな切り口を模索しているため後回しになったのだろうが、これはぜひ読みたかったところである。

 なお、装画と76人の作家のイラストをYOUCHAN氏が一人で担当している。この方の絵はポップだけれどスマートで嫌味がなく、個人的にも気に入っている絵師さんだ。ご本人も熱烈なミステリファンということもあるのだろうが、それにしても76人分の作家の絵なんてよく描いたよなぁ。松坂氏の原稿に見合う、素晴らしい仕事といえるだろう。

 というわけで本書については大満足。これからも折に触れて読み返したくなる一冊である。

テーマ:推理小説・ミステリー - ジャンル:本・雑誌


 ブログ復活とか書きながらあっという間に十日近く経ってしまった。いや、なかなか通常営業には戻せないものである。とりあえずポール・アルテの『死まで139歩』をようやく読み終えたので感想をアップする。

 こんな話。ロンドンのある夜、ネヴィル・リチャードソン青年はある女性から、暗号のような言葉を投げかけられる。すぐにそれは女性の人間違いだったことがわかるが、ネヴィルは事件に巻き込まれているような、その女性のことが忘れられない。
 一方、ロンドン警視庁のハースト警部がツイスト博士の訪問を受けていたときのこと。ある男性が不思議な体験をしたと相談に訪れる。毎日、ある場所まで手紙を届けるという仕事にありついたが、なぜか徒歩で遠回りさせられるうえ、こっそりのぞいた手紙は白紙だったというのだ。
 やがてネヴィル青年の相談も受けたハーストとツイスト博士だが、この二つの妙な事件には、「しゃがれ声の男」の存在があることに気がついた。
 そして調査に乗り出したツイスト博士らの前に、靴だらけの密室で行われた怪事件が発生する……。

 

 実に久しぶりのツイスト博士シリーズ。それだけでもめでたいことであるが、これがまた期待を裏切らない傑作であった。いや、一般的な意味での傑作とはちょっと違うかもしれないのだけれど、アルテの良さが爆発した作品であることは間違いないだろう。
 導入の魅力的な謎がやはり第一。靴だらけの密室、ホームズの「赤毛連盟」を彷彿とさせる奇妙な仕事など、不可能犯罪的な興味はもちろんだが、なぜそのような奇妙な犯罪が起こったのかという謎にとにかく惹かれる。
 また、田舎町の醜聞であったり、ネヴィル青年の関係する事件であったり、同時発生的にさまざまな事件が起こり、それらが終盤に向けて修練される構成も見事。
 おまけにツイスト博士の密室講義まで入るメタな要素など、繰り返すがアルテの良いところが全部詰まったような作品なのである。もちろん真相や犯人の意外性も文句なし。

 唯一、ダメなところがあるとすれば犯人の動機であろう。動機そのものは全然納得できるものなのだが、そんな動機でここまでやるかという話。
 解説でも触れられているが、こういう「勘違い」がアルテの弱点でもあり、アルテのもう一人の探偵オーウェン・バーンズ・シリーズではこの弱点がとにかく顕著で、個人的にもうひとつノレない理由でもある。

 ともあれ本格好きであればこれはオススメ。個人的にはこれまで『狂人の部屋』が一番、『七番目の仮説』が二番という感じだったが、本作は『狂人の部屋』を抜いたかもしれない。


テーマ:推理小説・ミステリー - ジャンル:本・雑誌


 久々にブログを更新する。それにしても引っ越しでここまで読書生活がストップするとは思わなかった。いや、一、二週間は何もできないだろうとは予想していたが、ほぼ一ヶ月もほとんど本を読まず、本を買わず、ブログは完全に休業状態である。前回の引っ越し(といっても二十年以上も前だが)でもここまでひどくはなかったし、社会人になったとき、冠婚葬祭、体調不良やメンタルの疲弊など、これまでも若干中断することはあったが、今回は異常である。
 それもこれも結局は長年の積み重ねで、いろいろな物が増えたこと、そしてさまざまなしがらみが増えたことに他ならない。物が増えたのは自分の本もあるけれど、家族の持ち物も同様。そのために新居にかける手間ひまがとてつもなく増えてしまった。まあ、理想と現実の調整も大事なのだが、今回がおそらく終の住処になるだろうから、かなり好き勝手な注文をしてしまい、引っ越し後もなかなか片付かない。
 特にこれまでレンタル倉庫に積んでいた本を一挙に自宅に置けるようにしようと考えたのが運の尽きである。自宅の本はもちろん引っ越し業者にお願いしたが、レンタル倉庫の分は無謀にも自分ですべてやろうと決断し、これが今も尾を引いている(つまり運搬作業がいつまで経っても終わらない)。それだけに集中すれば一週間もあればなんとかなるのだが、当然そんな好き勝手なことばかりやっているわけにもいかない。
 あと、今回バカにならないと感じたのが、移転に絡む手続きの多さ。二十年前の引っ越しのときはせいぜい役所や電気ガス水道、電話、車、郵便局、銀行、保険程度だったと思うのだが、今ではネットのおかげでさまざまなものに住所登録をしており、しかも皆ネット手続きだから簡単かと思いきや、けっこう作りがぞんざいなアプリとかが多くてなかなかスムーズに進まない。結局、電話で質問するハメになるのだが、こういうのが繋がらないのは昔のまんま。やっと繋がっても、明らかに自分とこのバグだろうにそれはプロバイダーに聞いてくれとか言ってくる始末。

 そんなこんなで体力も精神も削られ続けた一ヶ月だったが、ようやく山は越えた感じで、といっても全体の消化率は70%といったところだが。それでもこうしてブログも近況報告ぐらいなら書く時間も出てきたので、読書もそろそろ本格的に復活させるつもりだ。
 というわけで明日はとりあえず話題になっている『シン・ウルトラマン』を観てきます。

テーマ:日記 - ジャンル:日記


 戸川安宣の『ぼくのミステリ・コンパス』を読む。東京創元社の編集者として活躍した戸川氏が、1978年から1992年にかけて朝日新聞に連載したミステリコラムをまとめた一冊。

 

 かつて国書刊行会からも戸川氏の『ぼくのミステリ・クロニクル』が刊行されたが、あちらは業界の裏方としての活躍、いわば黒子としての業績をまとめたものだったが、かたや本書では新聞に連載された書評などが中心で、表舞台の業績をまとめたものといえるだろう(とはいえ当時は匿名だったはずだが)。

 ただ、そうは言っても全国紙に掲載された、こぢんまりとしたコラムである。比較的マイルドな、悪くいえばあたりさわりのない書評だろうと思って読み始めたのだが、これがいい意味で裏切られた。新人作家はもちろんベテラン作家に対してもけっこう辛い評価をするし、翻訳や出版社の企画、新人賞などにもなかなか注文が厳しい。ときには『推理文学』や『幻影城』といった、おそらくほとんどの朝日読者が知らないであろうマイナーなミステリ雑誌の廃刊まで紹介するし、想像以上に好き勝手に書いている印象である。
 そんなミステリマニアが喜びそうな記事のある一方で、取り上げるミステリは本格から通俗もの、冒険ものと非常に幅広く、決してマニアばかり相手にしているわけでないのもよい。ちょっと驚いたのがフレデリック・フォーサイス『悪魔の選択』を採り上げていたこと。当時はすでに推しも押されぬベストセラー作家だったはずで、角川書店の新聞広告のデカさなどは今でも覚えている。それぐらい超メジャーになったしまったため、むしろミステリマニアが喜んで読むような作家ではなくなったと思うのだが、そういう作家も全国紙という媒体である以上しっかりと紹介するのがいいのである。そういう意味でも、採り上げられる本はマイナーメジャー共に、実に興味深い。

 ちなみに、以前『マンドレークの声 杉みき子のミステリ世界』の感想でも紹介したが、本書は金沢の小さな出版社である亀鳴屋から刊行されている。こちらの版元は編集も素晴らしいけれど、製本がまた輪をかけて素晴らしい。本書も装丁といい質感といいサイズといい実にしっくりくる。本好きなら絶対好きになる版元なので、気になる方は定期的にこちらをチェックしてみるとよろしいかと。

 なお、ナンバーは 279 of 613でした。

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 陸秋槎の『文学少女対数学少女』を読む。数学を扱ったミステリ、しかも連作短編ということで、昨年に読んだアレックス・パヴェージの『第八の探偵』を思い出したが、異なる点もまた多い作品だった。まずは収録作。

「連続体仮説」
「フェルマー最後の事件」
「不動点定理」
「グランディ級数」

 

 本書の主人公はミステリ好きの“文学少女”陸秋槎(りく・しゅうさ)と、同級生で数学の天才少女・韓采蘆(かん・さいろ)。陸秋槎が学内で発表するミステリのロジックエラーを防ごうと、韓采蘆に感想を求めたのが物語の発端である。題名から想像すると、この二人の知恵比べ、あるいは文系的なロジックと数学的なロジックの違いを対比するものかと思ったが、実際に読むとちょっと当てが外れてしまった。
 韓采蘆の存在はもう圧倒的なのである。ミステリにおけるロジックを数学的に解明しつつ、陸秋槎の書いた作品のミスを徹底的に指摘する展開。と同時に「君がそう言ったとき、かつそのときに限り。君が作者なんだから、君が犯人だと言った人間が犯人であり、君が真相だと言ったものが、つまり真相である」とも告げる。
 本格ミステリとは何なのか、ミステリにおけるロジックとは如何なる意味を持つのか。つまりは数学的にそういう実験的、評論的なテーマに挑んだ作品であり、いかにも新本格を彷彿とさせる作品である、

 ただ、この手のアプローチは一見、魅力的ではあるが、正直、やってもやってもキリがない面はある。作者のハラひとつで正解はいかようにもできるし、どんでん返しも然り。それこそ「君が真相だと言ったものが、つまり真相」なのである。
 ここまで直接的なアプローチではなくとも、こうした例は古くはホームズのパロディなどにもあるし、それこそ新本格の作品にも多い。実はこんなことは改めて言わないだけで、どの本格ミステリ作家も承知のことなのではないか。そこをいかに落としどころとして面白くするかが作家の技量次第というだけで。
 個人的にいただけないのは、本作もまた小説としての落としどころが弱いところだ。ミステリという枠や器について語ることに淫してしまい、最初こそ感心もするが爽快さや感動については薄い。説明ばかりを読まされているというと大げさだが、やはり物語との融合は重要だろう。個人的にメタミステリは嫌いじゃないけれど、著者には内に内に向かってゆく作品よりも、『元年春之祭』のように大風呂敷を広げた作品の方がロジックの切れ味も冴えるのではないか。『第八の探偵』もメタではあるし、やり過ぎのところもあって多少イラっとする部分もあったが(苦笑)、ここがきれいにクリアできていたように思う。

 もうひとつ気になった点として、いわゆる百合要素がある。陸秋槎の作品にはもう欠かせない要素のようだが、これも著者の嗜好とはいえ、個人的には食傷気味だ。それともこの点こそが今の読者の需要に沿っているのだろうか。みなさん、そんなに百合好き?
 とはいえ同性愛だから嫌だというわけではない。演出がいかにも日本のアニメやライトノベルのような描写だから気になるのである。影響を受けているのはもちろん理解しているが、キャラクター造形や描写については借り物の印象が強く、そういう意味でもこれまでとは異なる世界観の作品を読んで見たいものだ。


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 あまり身辺雑記は日記に書いてこなかったが、備忘録として書いておこう。

 実は二十年以上住んでいた一軒家から引っ越すことになった。老後のことを考え、マンションに住み替えることにしたのである。昨年に四半世紀ほど役員を務めていた会社を離れ、三十年ぶりぐらいにフリーに転身したこともあって時間の融通がかなり利くようになり、この一、二年、ずっと物件探しから工事に至る諸々を進めていたわけである。
 そしてようやく工事も終わりに近づき、今月、引っ越しとあいなった。ただ、読者家にとって辛いのが山のような本である。これまではレンタル倉庫まで借りていたが、これを機にできるかぎり不要な本は処分し、すべて自宅に本を収容できるようにしたはずだが、あくまで机上の計算なので、もしかして本が入らない可能性もないではない。しかし、手持ちの本をすべて把握し、整理する最大のチャンスでもある。早めに荷造りを始め、いまはダンボール箱に本を詰める毎日である。もう手がガッサガサ。

 ちなみにこれまでは中央線の住人でしたが、京王線の住人に変わります。

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 本日もROM叢書からの一冊。T・H・ホワイトの『ペンバリー屋敷の闇』。個人的にはまったく知らない作家だったが、インターネットでザクッと調べてみると、フルネームはテレンス・ハンベリー・ホワイト。本書こそミステリだが、基本的にはファンタジーで知られたイギリスの作家であり、我が国でも創元推理文庫で『永遠の王 アーサーの書(上・下)』が邦訳されている。

 ケンブリッジ大学の学生が下宿で銃殺されるという事件が起こり、その翌朝には向かいにあるセント・バーナーズ・カレッジの一室で、評議員が銃殺死体となって発見される。しかも評議員の死は密室状態であった。当初は評議員が学生を殺害し、自殺したのかと思われた。
 しかしブラー警部はすぐに死亡した評議員の犯行ではないと見抜き、別の人物を犯人と考える。当の本人はあっさりと犯行を認めたが、立件するほどの証拠がなく……。

 販売サイトやSNSなどでも普通に書かれているのでネタバレにはならないと思うが、一切の先入観なしで読みたいという方は、以下の文章にご注意ください。

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 本作最大の驚きはその構成である。単純に大きく二部構成を取っているのだが、第一部と第二部でまったくテイストが異なっているのだ。すなわち第一部ではオーソドックスな本格探偵小説だが、第二部ではサスペンスに変わるのである。しかも第一部は全体の三分の一ほどしかなく、そこで犯人も明らかになる。それを踏まえての、サスペンスの第二部というわけである。
 もちろん本格の中にもサスペンスを効かせたものはあるし、サスペンスでも謎解きを重視している作品もある。だがそういう融合した形ではなく、完全に第一部と第二部でスタイルを分けたところがミソだろう。正直、読み終えた今でも著者にどういう思惑があったのか不明である。これが出来の悪い作品なら単に構成が下手なだけだと思うところだが、刊行された1932年という時代を抜きにしても、本格の第一部もサスペンスの第二部もなかなか悪くないのだ。それだけに余計、このアンバランスな構成が不思議でしょうがない。
 単なる想像に過ぎないが、これは狙って書いたというより、犯人と探偵役の物語を書く中で、当時流行っていた本格探偵小説のスタイルを導入として活用した、というところではないだろうか。

 ちなみに著者はファンタジーで知られていると上で書いたが、実はそんなものではなく、本国イギリスでは多くのファンタジー作家やSF作家に影響を与えたほどの存在らしい。あのハリー・ポッターの生みの親、J・K・ローリングも、ダンブルドア等のキャラクターなどにその影響を認めている。『永遠の王 アーサーの書(上・下)』に登場する魔法使いマーリンがそのモデルらしいので、ハリー・ポッターファンは確かめてみるのも面白いだろう。

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 先月、三月三日に西村京太郎氏が亡くなった。享年九十一。直前まで執筆を続けられたそうだが、トラベルミステリを中心に生涯647作という信じられない数の著作を残した。そのためミステリ的には軽く見られたところもあったが、ただ、多作家であるためには、それだけの需要がまず必要なわけで、そういう意味では奇跡的といっても差し支えないだろう。
 しかも単なる多作のベストセラー作家というだけではなく、デビューからから七十年代にかけては傑作も多く、改めてその凄さが注目されている。乱歩や正史、清張らとは方向性は違うけれども、西村京太郎もまた日本ミステリ史に燦然と輝く作家の一人なのだ。

 

 とまあ偉そうに紹介はしてみたものの、そういう管理人は恥ずかしながら長篇は名探偵シリーズぐらいしか読んだことがない。昭和のミステリ作家をぼちぼちと読み進めていることもあって、初期作品は買い集めてはいるものの、まだ順番待ちという状態である。
 そんなところに登場したのが、〈オール讀物〉編集部による『西村京太郎の推理世界』。西村京太郎の軌跡を辿った一冊である。今後の西村作品を楽しむためにちょうど良いのはもちろん、もともとガイドブック好きな管理人としては買わないわけにはいかない。

 ただ、心配な点もあった。訃報から本書の刊行までがあまりに早く、スピード重視で作った雑な本である可能性があったからだ。しかしながら、ひととおり目を通し、この短期間でよくぞここまでまとめたなと感心してしまった。とりあえず目次を載せておこう。

追悼 レジェンドに贈る感謝とお別れの言葉
 赤川次郎「0.1ミリの違い」
 東野圭吾「小説家として」
特別対談 綾辻行人×有栖川有栖「僕らの愛する西村作品ベスト5」
オール讀物推理小説新人賞受賞作全文掲載「歪んだ朝」
 受賞のことば 「嬉しさでいっぱい」西村京太郎
 第2回オール讀物推理小説新人賞決定発表 選評 有馬頼義/高木彬光/水上勉/松本清張
随想 ベストセラー作家前夜
 「推理小説新人賞」の頃
 「瞼の師」長谷川伸
オール讀物傑作選
 「美談崩れ」 1965年9月号「見舞の人」 1967年3月号
 「夜行列車『日本海』の謎」1982年12月号
 「事件の裏で」 1983年7月号
座談会
 「オール讀物」と推理小説の90年 北村薫×北上次郎×戸川安宣
作家同士で語り合った四方山秘話
 山村美紗「事実は推理小説より奇なり」
 阿川佐和子「唯一無二の同志兼恋人」
 佐野洋×三好徹 司会・大沢在昌「ミステリー界の巨人たち」
 赤川次郎「ミステリーを書き続ける幸せ」
トラベルミステリーと歩み続けて
 宮脇俊三「ミステリーはローカル線に乗って」
 インタビュー 「鉄道と小説を愛して」「家の履歴書」
 絶筆 「SL『やまぐち』号殺人事件」の日々
生涯647冊全著作リスト

 もちろん新規の原稿などは少なく、過去の短篇やエッセイ、対談など、再録中心ではあるのだが、それにしても網羅的にポイントを押さえている。作家デビューの頃、トラベルミステリ創作の話、山村美紗との思い出など、ファンであれば気になるネタも多いのではないか。短篇としてはデビュー作の「歪んだ朝」をはじめ、オール読物からの傑作選ということで計五作を収録。
 新規の記事としては赤川次郎、東野圭吾による追悼文、綾辻行人×有栖川有栖による西村作品のベスト5を選ぶ対談があり、とりわけ西村入門者には対談が役に立つ。
 そして記事ではなく資料になるが、巻末の「生涯647冊全著作リスト」がこれまた非常に便利でありがたい。

 ということで西村京太郎のよき読者でなくとも、ミステリに少し深く付き合いたいという人であればこれは買い。管理人も本書を参考に少しずつ西村作品を読んで供養としたい。


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 今月はいよいよ扶桑社ミステリーで『レオ・ブルース短編全集』が出ることもあり、その前に景気付けというか前祝いということで、これまたとっておきのROM叢書からの一冊『死者の靴』を』を引っ張りだしてみた。

 こんな話。モロッコのタンジールからロンドンに向かう貨物船サラゴサ号。その乗客の一人、ラーキンは大声や不作法で他の乗客から嫌われていたが、さらには殺人容疑の噂まで上がっていた。ロンドンで散歩中に大富豪グレゴリーが殺害され、ラーキンはその現場の近くで目撃されており、しかも事件後すぐにタンジールへ逃げていたのだ。さらには警察の調査で、グレゴリーから度重なる送金を受けていた事実も明らかになっていた。
 ところがロンドン到着も近いある日の夜、船から誰かが落ちる騒動があり、ラーキンの姿だけが見当たらない。調査を始めた船長は、ラーキンの部屋でグレゴリー殺害と自殺を示唆する書置きを発見した。だが乗客の一人ローパー夫人はこれが他殺ではないかと考え、船から降りると歴史教師の素人探偵キャロラス・ディーンに一報を入れる……。

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 『ミンコット荘に死す』『ハイキャッスル屋敷の死』の間に書かれた1958年の作品。ディーンものとしては四作目だが、ブルースの長編としては十三作目。そういう意味では中期ぐらいの作品といっていいのかもしれない。
 如何せん後期の作品がほぼ未訳なので作風の移り変わりなどは把握していないが、中期頃の作品に関してはディーンものがスタートして安定的に長編を発表していた時期でもあり、邦訳されたものについてはほぼハズレがないのが素晴らしい。どころか最低でも佳作レベルというアベレージの高さである。本作もその例に漏れず、十分に満足のいく一冊であった。

 ただ、メイントリックがいつもより読まれやすいというか、1958年発表ということを考慮しても、少し古い感じは否めない。基本的にはメインとなる仕掛けでほぼ一発勝負。それを柱にしてユーモアで味付けしたシンプルなミステリである。個人的に著者のセンスが好み(仕掛けや作風すべて込みで)ということもあるので、やや甘い基準にはなるが、語り口は楽しいし、ミスリードが上手いので、そこまでバレバレという感じではない。
 その一方で、相変わらず地味ではあるものの、航行中の貨物船で事件が幕を開けたり、中盤でもディーン自身がモロッコに向かったりと、ストーリーとしては比較的珍しい趣向があってその辺は楽しいところだ。もちろんゴリンジャー校長との掛け合いなどはいつもどおり絶好調である。

 なお、「訳者あとがき」によると小林晋氏は今後も年一作のペースで長編を刊行し、日本語版全集完成を目指したいとのこと。まだまだ作品は残っているが、ぜひ頑張っていただきたいものだ。期待しております。

テーマ:推理小説・ミステリー - ジャンル:本・雑誌



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